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Alarik

物語の題名:『影を編む指、光を忘れた瞳』

1. 守護者アラリックと、銀の踊り子

辺境の村「アステラ」に、アラリックという名の若い魔法使いがいました。彼は月の光を言葉に変える「月詠み」の天才であり、村の踊り子エレナが舞う祭りの夜、その伴奏として月琴(リュート)を弾くのが彼の役目でした。

二人は密かに、ある約束を交わしていました。

「いつか皆既月食が終わったら、この村の結界の外へ、本当の『朝』を探しに行こう」 それは、永遠の黄昏に生きる彼らにとっての、二人の秘密(Sekreta-duo)でした。

2. 予期せぬ新月の夜

ある年の月光祭、突如として空が厚い雲に覆われ、二つの月の光が完全に遮断されるという異常事態が起きました。光を失った結界はひび割れ、森の奥から溢れ出した「影の怪異」たちが村を襲います。

エレナは必死に踊り続けましたが、光のない夜に結界を維持することは、彼女の命を削る行為でした。彼女の足元から銀色の光が消えかけ、影がその白い指先に触れようとしたその時、アラリックは決断しました。

3. 禁忌の契約:影の浸食

アラリックは、月の光ではなく、自らの「存在」を燃料にして闇を焼き払う禁忌の術を発動しました。 「僕の記憶を、光に変えてくれ」

彼は自ら影の領域(Umbra-noxis)に足を踏み入れ、押し寄せる闇をその身に吸い込み始めました。影は彼の足から、腰へ、そして心臓へとじわじわと這い上がり、彼の美しい銀色の瞳を漆黒に染めていきます。

4. 失われていく記憶

影に呑まれる過程で、アラリックの心からは「大切なもの」が一つずつこぼれ落ちていきました。

  • 最初に、自分が魔法使いであることを忘れた。
  • 次に、村の名前と、自分の名前を忘れた。
  • そして最後に……エレナの笑顔と、交わした約束を忘れてしまいました。

結界は再び輝きを取り戻し、村は救われました。しかし、光が戻った広場にアラリックの姿はなく、そこにはただ、主を失い影に汚れた一本の月琴だけが転がっていました。

5. 永遠の黄昏を彷徨う影

現在も、アステラの村の近くにある「静寂の古森」には、一体の「歌う影」が彷徨っていると言われています。 その影は、もはや言葉を話すことはできません。ただ、どこかで聞いたような懐かしい祭囃子の旋律を、掠れた声で口ずさんでいます。

森を訪れる旅人は、時折その影が、村の方角から聞こえてくる「銀鈴の音」に反応して、寂しそうに立ち止まる姿を目撃します。彼は自分が誰を待っているのかさえ思い出せないまま、永遠に明けない夜の中で、かつての約束のメロディを紡ぎ続けているのです。


エピソード・アイテム

  • 【影に汚れた月琴】 アラリックの遺品。弾くと、美しい音色の中に時折「ノイズ(影の囁き)」が混じる。この楽器を装備すると月光魔法が強化されるが、使用者の精神が少しずつ影に侵食されるという呪いがある。